大阪地方裁判所 平成2年(ワ)258号 判決 1992年1月30日
原告 中田健次
原告 株式会社サンライフジャパン
右代表者代表取締役 中田幸吉
右両名訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 松本司
同 今中利昭
同 吉村洋
同 浦田和栄
同 森島徹
同 豊島秀郎
同 辻川正人
同 東風龍明
被告 株式会社伊勢丹
右代表者代表取締役 小管国安
被告 有限会社 レマック
右代表者代表取締役 福田英夫
右両名訴訟代理人弁護士 山崎行造
同 名越秀夫
同 伊藤嘉奈子
同 窪木登志子
同 松波明博
同 日野修男
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは別紙被告商品目録一記載のトレーナー、同目録二記載のTシャツ及び同目録三記載のポロシャツを販売してはならない。
二 被告らは前項記載のトレーナー、Tシャツ及びポロシャツを廃棄せよ。
三 被告らは、各自、原告中田健次に対し金三〇〇万円、原告株式会社サンライフジャパンに対し金七〇〇万円及び右各金員に対する被告株式会社伊勢丹は平成二年一月二六日から、被告有限会社レマックは平成二年二月五日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 原告中田健次の有する商標権
1 原告中田健次(以下「原告中田」という。)は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有する(争いがない。)。
登録番号 第五五四六九九号
登録商標 別紙商標目録記載のとおり
設定登録日 昭和三五年八月二三日
原告中田に対する移転登録年月日 平成元年四月二四日
商品の区分及び指定商品 旧商標法施行規則(大正一〇年農商務省令第三六号)第一五条に規定する商品類別による第三六類(以下「旧第三六類」という。)純綿莫大小製のシャツ及ズボン下、その他純綿莫大小製の衣服及肌衣類
2 なお、本件商標は、左記(一)及び(二)の商標権が存続期間満了により消滅するまで、各登録商標と相互に連合商標の関係にあった。
(一) 登録番号 第四〇七三六〇号(抹消登録済み)
登録商標 別紙旧連合商標目録(1)記載のとおり(以下この商標を「旧連合商標(1)」という。)
出願日 昭和二六年二月六日
設定登録日 昭和二七年一月一七日(昭和四七年四月一〇日存続期間の更新登録、昭和五七年一月一七日存続期間満了)
商品の区分及び指定商品 旧第三六類 莫大小製シャツ、肌着、その他本類に属する商品
(二) 登録番号 第一三三六四三二号(抹消登録済み)
登録商標 別紙旧連合商標目録(2)記載のとおり(以下この商標を「旧連合商標(2)」という。)
出願日 昭和四六年七月二二日
設定登録日 昭和五三年七月二一日(昭和六三年七月二一日存続期間満了)
商品の区分及び指定商品 第一七類被服(但し洋服、コートを除く)布製身回品
二 被告らの行為
1 被告有限会社レマック(以下「被告レマック」という。)は、平成元年四月二四日頃から同年九月二六日頃までの間、別紙標章目録(1)記載の標章(以下「甲標章」という。)を背面及び正面左胸部分に印したTシャツ(以下「被告Tシャツ」という。)を被告株式会社伊勢丹(以下「被告伊勢丹」という。)に販売し、被告伊勢丹は、その頃、これを一般需要者に販売した(販売の事実は争いがない。)。
2 被告レマックは、甲標章を背面に、同目録(2)記載の標章(以下「乙標章」という。また、甲標章と乙標章をまとめて「被告標章」という。)を正面左胸部分に印したトレーナー(以下「被告トレーナー①」という。)を衣料品問屋又は小売業者に販売した。
3 被告レマックは、乙標章の下に「F1 Racing Team」のアルファベット文字を横書で配した標章を背面に、乙標章を正面左胸部分に印したトレーナー(以下「被告トレーナー②」という。)を被告伊勢丹に販売し、被告伊勢丹は、これを一般需要者に販売した。
4 被告レマックは、乙標章を正面左胸部分に印したポロシャツ(以下「被告ポロシャツ」という。また、被告Tシャツ、被告トレーナー①、被告トレーナー②及び被告ポロシャツをまとめて「被告商品」という。)を被告伊勢丹に販売し、被告伊勢丹は、これを一般需要者に販売した(以下被告両名の被告商品販売行為を「本件販売行為」という。)。
5 被告商品は、一〇〇パーセント木綿製(即ち純綿)のメリヤス製であり、本件商標権の指定商品の範囲に属する。
三 原告らの請求の概要
1 原告中田
本件販売行為(損害賠償請求の関係では平成元年四月二四日頃から同年一一月末日までの販売行為。差止・廃棄請求の関係では現在の販売行為)が本件商標権を侵害する被告らの共同不法行為であることを理由に、被告商品の販売差止及び廃棄並びに損害賠償金及び訴状送達の日の翌日から支払済まで民法所定の遅延損害金の支払を請求。
2 原告株式会社サンライフジャパン(以下「原告会社」という。)
本件販売行為(期間は1に同じ)が原告中田から本件商標権につき設定を受けた独占的通常使用権を侵害する被告らの共同不法行為であることを理由に、損害賠償金及び訴状送達の日の翌日から支払済まで民法所定の遅延損害金の支払を請求。
四 主な争点と争点に関する当事者の主張の要旨
1 被告標章が本件商標に類似するか否か
(原告らの主張)
(一) 本件商標は、「ラクダ印」の文字の部分から、「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼を生じ、「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念を生ずる。
本件商標が旧連合商標(1)及び同(2)と相互に連合商標の関係にあったことは、本件商標と旧連合商標(1)及び同(2)とが相互に類似であることを示しており、これらを比較すると、本件商標から「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼及びそれに応じた「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念を生ずることは明らかである。
これに対して、被告標章は、「CAMEL」の文字が動物のラクダを意味するとともに、動物のラクダの図形を配しているから、「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念を生じ、被告標章は本件商標と観念において同一であり、本件商標に類似する。
(二) 本件商標の「ラクダ」の文字は、通常は動物のラクダを想起させるのみであり、また日本語において「……印」という場合、通常「印」の前の「……」部分には一定の外形・形状を有するものを表す語が入り、殊に商標においてはその部分に一定の明確な形象を想起させる文言が用いられているから、一般人が、「ラクダ印」という文字から、明確な形象をもった「動物のラクダ」を想起するにもかかわらず、漠然とした抽象的概念である「ラクダの毛から製した毛糸・毛織物」を想起することは通常ありえないことであるから、被告らの主張(二)は失当である。また、繊維製品と動物のラクダは全く異なるものであるから、「ラクダ」の文字は商品識別力を有し、仮に「ラクダ」の文字から「ラクダの毛から製した毛糸・毛織物」という意味が生ずることがあるとしても、本件商標権の指定商品である純綿メリヤス製の衣類及び肌衣類とは何ら関係がないから、やはり商品識別力を有する。
(三) 被告標章及び被告らの主張(三)記載の各マークは、煙草と全く関係のない衣料業界とりわけ本件商標権の指定商品の需要者には著名でなく、煙草の分野においても本件商標の出願当時は著名ではなかった。
(被告らの主張)
(一) 本件商標中の「ラクダ印メリヤス」の文字は、本件商標の中央部分に、他の文字よりも一際大きく、同色・同書体、ほぼ等間隔で一列に並んでおり、一連不可分の表現態様である。また、その称呼も長くはなく、澱みなくスムースに流れるうえ、従来からラクダ毛製品や、ときには綿肌着を黄褐色に着色したもので保温製に優れたものを「ラクダのシャツ」とか「ラクダの股ひき」等と通称しているので、右通称と同じように「らくだじるしめりやす」として一連に称呼されるのが取引上自然である。更に、指定商品が純綿メリヤス製品に限定されていることからも、「メリヤス」までを一連に観念し、称呼されるのが自然である。したがって、本件商標の要部は一連不可分の「ラクダ印メリヤス」の文字である。これに対して被告標章は「ラクダ印メリヤス」の称呼又は観念を生じないから、被告標章は本件商標に類似しない。
(二) 「ラクダ」の語には、「動物のラクダ」の意味だけでなく、「動物のラクダの毛から製した毛糸・毛織物」という意味があるから、「ラクダ」の文字を本件商標権の指定商品である純綿メリヤス製の衣服及び肌衣類に用いると、需要者は、その繊維製品が、純綿製であるにもかかわらず、動物のラクダの毛から製した毛糸・毛織物であろうという意味を感ずる。したがって、「ラクダ」又は「ラクダ印」の文字部分、特に「ラクダ」の文字部分は、商品の品質についての誤認を生ずるおそれがあるから、それのみでは本件商標の要部とは認められない。したがって、「ラクダ」又は「ラクダ印」の文字部分から抽出される「動物のラクダ」の観念において被告標章が本件商標に類似するということはできない。
(三) 商標権侵害に際しての商標の類否や商標権侵害の判定基準は、商標の基本的機能である出所表示機能を害するか否か、換言すれば商品の出所混同を惹起するか否か、によるべきである。
別紙被告マーク目録(1)記載のマーク(以下「CAMELマーク」という。)及び同(2)記載のマーク(以下「CAMELとラクダのマーク」という。)は、煙草業界及びその需要者間に限らず衣料業界及びその需要者間においても、世界屈指の煙草製品の製造販売会社である訴外アール・ジェイ・レイノルズ・タバコ・カンパニー(以下「訴外レイノルズ」という。)又はそのライセンシーを含めた企業グループが想起されるほど著名である。したがって、被告標章から、訴外レイノルズ又はそのライセンシーを含めた企業グループが想起され、被告商品と本件商標を付した商品とがその出所を混同されることはありえないから、被告標章と本件商標とは類似せず、本件販売行為は本件商標権の侵害にならない。
更に被告商品の販売形態を見ても、被告伊勢丹で販売した商品については、被告伊勢丹は大手有名百貨店であり、特にF1フェアと称する催し期間中は、売場に、チーム・キャメルやチーム・マクラーレン・ホンダ等の本物のF1カーを三台並べ、F1レースのパネルを飾り、音響効果を与え、鈴木亜久里選手のトークショーも宣伝されていて、実際の客層も高校生・大学生の若い年令層でしかも二週間に約三万人も集まったこと、期間後もやはり若い需要者のマニアチックな面に訴える演出がなされていたことから、被告商品の出所がF1レースのチーム・キャメルに関係があると見られていたことは明らかである。被告標章は、山吹色と青色の派手な色使いで「CAMELとラクダのマーク」を大きく付けており、これを、黒地の扇形の中に赤色の楕円を配しその中に漢字片仮名混じりで「純綿保証ラクダ印メリヤス 特撰」と書いた本件商標と対比すると、印象が全く異なるから、出所混同を生ずることはありえない。しかも、本件商標の使用態様は、本件商標の不使用による登録取消審判事件における原告中田の主張によれば、黒地に白抜きの片仮名及び漢字で、しかも襟首に異常に大きく「ラクダ印」と書かれていて、ファッションセンスを全く感じさせないものであり、この点からみても、本件商標と被告標章の間で出所混同を生ずることはありえない。
2 原告らの権利行使が権利の濫用に該当するか否か
(被告らの主張)
原告中田は、訴外レイノルズが多大の広告・宣伝費を投じて煙草のみならず衣料、眼鏡など商品の種類を問わずに広く認識されるようになった「CAMELマーク」又は「CAMELとラクダのマーク」の名声を自己の利益に用いようと企図し、「CAMELマーク」又は「CAMELとラクダのマーク」そのものや「CAMELマーク」を含む商標について四件の商標登録出願をしたうえ、たまたま第三者が所有し、使用されていなかった本件商標権を譲り受け、これによって訴外レイノルズの前記マークの使用を禁圧しようとして、訴外レイノルズの取引先の中でも信用問題に敏感な百貨店等に対して、「CAMELとラクダのマーク」の使用差止等を求めるものであり、原告らの本訴請求は、商標権或いは主張するところの独占的通常使用権の濫用である。
3 本件販売行為が本件商標権の侵害になる場合、被告らが原告中田に賠償すべき損害金額(原告中田は本件商標の使用料に相当する額が三〇〇万円である旨主張する。)
4 本件販売行為が本件商標権の侵害になる場合、原告会社が被告らに対して損害賠償請求権を有するか否か。すなわち、
(一) 原告中田が原告会社にいわゆる独占的通常使用権を許諾したか
(二) 原告会社が本件販売行為により損害を被ったか
(三) 被告らに過失があったか
(四) 原告会社に生じた損害金額(原告会社は被告らの利益相当額一〇〇〇万円と右使用料相当額の差額の七〇〇万円が原告会社の被った損害額である旨主張する。)
第三争点に対する判断
一 争点1(本件商標と被告標章の類否)について
1 本件商標は、黒色の形の内部に赤色の略楕円形を配し、該略楕円形の内部に、「純綿保証」、「ラクダ印メリヤス」及び「特撰」の漢字又は片仮名文字を三段に横書して白抜きで表示した、図形と文字の結合からなるものであって(別紙商標目録)、商標法施行法七条一項、旧商標法(大正一〇年法律第九九号)一条三項の規定により商標に施すべき色を限定して登録を受けたものである。
これに対し、乙標章は、青色の「CAMEL」のアルファベット文字を緩やかな山なりの横書で表示し、その下に足元付近に横線を引いた動物のヒトコブラクダの左側面の青色の図形を配した、文字、図形及び色彩の結合からなるものであり、甲標章は、乙標章の下に更に青色の「Grand Prix Racing Team」のアルファベット文字を横書で表示した、文字、図形及び色彩の結合からなるものである。
2 したがって、被告標章は、いずれも外観において本件商標と著しく相違し、外観において類似しないことは明らかである。
3 次に、称呼及び観念についてみる。
(一) 本件商標の構成は右1のとおりであるから、その文字部分の自然の称呼として、「じゅんめんほしょうらくだじるしめりやすとくせん」の称呼及びそれに応じた観念を生ずるほか、文字部分は三段からなっており、そのうち中段の「ラクダ印メリヤス」の部分は、上下段の「純綿保証」及び「特撰」の部分に比して大きく表示されているうえ、「純綿保証」及び「特撰」は商品の原材料及び品質を表示するものでそれのみでは自他商品の識別力を有しない部分であるから、「ラクダ印メリヤス」の部分が識別力のあるものとなり、その部分から「らくだじるしめりやす」の称呼及びそれに応じた観念を生ずると認められる。
(二) 原告らは、更に、本件商標の「ラクダ印」の文字の部分から、「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼を生じ、「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念を生ずる旨主張する。
確かに、「ラクダ印メリヤス」の部分自体も、一〇音からなる比較的長い称呼を有すること、「ラクダ」の文字に続けて小さく「印」の文字が記されたうえで「メリヤス」の文字が記されていること、「メリヤス」の部分は商品の品質、原材料ないしは生産方法を示す語であって、通常一般的にはそれのみでは自他商品の識別力を有しない部分であることは原告ら主張のとおりであり、このことを考慮すると、本件商標が、取引上、「らくだじるし」又は「らくだ」の称呼をもって略称され、「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念を生ずる可能性は否定し難いところである。
また、旧連合商標(1)と本件商標との共通性を求めるとすれば、「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼、「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念以外には見い出せず、本件商標と旧連合商標(2)についても同様であるから、特許庁審査官は本件商標から、「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼、「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念を生ずると判断していたものとみる余地もある。
(三) しかしながら、「ラクダ」の語には、「動物のラクダ」という意味以外に、「ラクダの毛から製した毛糸で作った布、衣料」という意味があるから、本件商標を、指定商品である、純綿メリヤス製のシャツ及びズボン下、その他純綿メリヤス製の衣服及び肌衣類に使用し、「ラクダ」の文字部分から生ずる称呼又は観念のみに基づいて取引をした場合には、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある。したがって、取引の実際においては、「らくだ」の称呼をもって略称されることは避けるべきものと考えられる。なお、被告らは、「ラクダ印」の文字部分についても、同様の理由で商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから要部とはなりえない旨主張するが、「ラクダ印」の文字部分から、商品が「ラクダの毛から製した毛糸で作った布、衣料」であるとの誤認を生ずるとは認めがたい。
(四) また、本件商標の設定登録後に、商品の区分を第一七類として、動物のラクダに関係する称呼及び観念を生ずる可能性があると認められる、次の各商標登録出願がなされ、設定登録された。
(1) 登録番号 第八七五八五七号
登録商標 別紙比較商標目録(1)記載のとおり
出願日 昭和四三年七月二〇日
設定登録日 昭和四五年一〇月九日
(昭和五六年三月三一日存続期間の更新登録)
指定商品 被服、布製身回品、寝具類
(2) 登録番号 第一一三〇二六三号
登録商標 別紙比較商標目録(2)記載のとおり
出願日 昭和四六年五月七日
設定登録日 昭和五〇年七月八日
(昭和六〇年九月一九日存続期間の更新登録)
指定商品 被服、布製身回品、寝具類
(3) 登録番号 第一四二二〇〇一号
登録商標 別紙比較商標目録(3)記載のとおり
出願日 昭和五〇年九月九日
設定登録日 昭和五五年六月二七日
指定商品 被服、布製身回品、寝具類
(4) 登録番号 第一五一四八三二号
登録商標 別紙比較商標目録(4)記載のとおり
出願日 昭和五〇年一二月三日
設定登録日 昭和五七年五月二五日
指定商品 被服、布製身回品
(5) 登録番号 第一六一〇七六六号
登録商標 別紙比較商標目録(5)記載のとおり
出願日 昭和五四年三月二〇日
設定登録日 昭和五八年八月三〇日
指定商品 被服、布製身回品、寝具類
(6) 登録番号 第一八〇二三九九号
登録商標 別紙比較商標目録(6)記載のとおり
出願日 昭和五六年一月一二日
設定登録日 昭和六〇年八月二九日
指定商品 被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)
(7) 登録番号 第一七三五三四一号
登録商標 別紙比較商標目録(7)記載のとおり
出願日 昭和五六年一一月一七日
設定登録日 昭和五九年一二月二〇日
指定商品 被服、布製身回品、寝具類
(8) 登録番号 第一七九六〇六三号
登録商標 別紙比較商標目録(8)記載のとおり
出願日 昭和五七年六月八日
設定登録日 昭和六〇年七月二九日
指定商品 被服、布製身回品、寝具類
(9) 登録番号 第一八一二一四〇号
登録商標 別紙比較商標目録(9)記載のとおり
出願日 昭和五七年一二月二四日
設定登録日 昭和六〇年一〇月三一日
指定商品 被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)
(10) 登録番号 第一九二七三三六号
登録商標 別紙比較商標目録(10)記載のとおり
出願日 昭和五九年七月二五日
設定登録日 昭和六二年一月二八日
指定商品 ブラウス、和服、ネクタイ、ふろしき、ふとん、その他本類に属する商品
(五) 右の各登録商標は、いずれも、その指定商品中に本件商標の指定商品を包含し、かつ動物のラクダの図形を商標中に取り入れており、特に(4)、(5)、(7)、(8)、(9)及び(10)の各登録商標からは、その構成に照らして「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼及び「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念を生ずるものと認められ、これらの登録商標が存在する事実に照らして考えると、原告らが被告らが本件販売行為を行ったと主張する平成元年四月二四日頃から同年一一月末日までの当時においては、「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼及び「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念のみでは、商標の基本的機能である自他商品の識別標識としての機能を果たすことはできない状況にあったものといわなければならない。すなわち、右当時においては、本件商標が使用された場合に、取引の実際において、取引者及び需要者により、「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼や単なる「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念のみによって識別されて、取引きされ、購入されることはない状況に到っていたと認められる。このことは口頭弁論終結時においても同様である。
なお、原告らは、右(1)ないし(10)の登録商標はいずれも本件商標権の出願及び設定登録後に出願及び設定登録されたものであるから、それらによって本件商標権の効力範囲が左右されることはありえない旨主張するが、平成元年四月二四日の時点では、いずれも商標権設定登録がなされており、特に、(1)ないし(5)の各登録商標に関しては、その時点において、本件商標との類似(商標法四条一項一一号)を理由とする商標登録の無効審判の請求(同法四六条)が無いまま五年の除斥期間(同法四七条)が経過していた(口頭弁論終結時には、(6)ないし(9)の各登録商標についても同期間が経過している)ことを考慮すると、本件商標中の自他商品識別機能を果たす部分の認定に当たり右各登録商標を考慮せざるをえない。
(六) これに対し、被告標章は、甲標章は、その文字部分の自然の称呼として「キャメルグランプリレーシングチーム」の称呼を生じ、かつ「CAMEL」の文字が他の文字部分より大きくかつ上部にあって際立っているから同文字部分から「キャメル」の称呼を生ずると認められ、また、乙標章はその文字部分の自然の称呼として「キャメル」の称呼を生ずると認められ、いずれも本件商標とは称呼において類似しない。
また、被告標章の観念については、いずれも、その構成のみをみれば、「CAMEL」の文字と動物のラクダの図形部分からは、原告主張の如く「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念を生ずる余地はありうる。しかしながら、右のとおり、本件商標が使用された場合に、取引の実際において、取引者及び需要者により、単なる「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念によって識別されて、取引きされ、購入されるとは認められない以上、被告標章から右観念を生ずる余地があるとしてもそのことを理由に被告標章が本件商標と観念において類似すると認めることはできない。
4 更に、商標は、取引において、その商品が自己の製造、販売等営業にかかるものであることを表彰するために使用されるものであり、商標に排他的な権利を与えて保護しようとする目的は、自他商品を識別し、商品の出所が混同されることを防止することにあると解されるから、商標の類否の判断に当たっては、その商品の取引の実情において、取引者又は需要者の間に商品の出所につき混同を引き起こすおそれがあるかどうかを考慮すべきであり、少なくとも商標権侵害の有無を判断する場合(商標法三七条)には、右取引の実情として、侵害すると指摘された商標の著名性等具体的事情も当然考慮すべきである。
これを本件についてみると、訴外レイノルズは、「CAMELマーク」(字体が若干異なるが各文字を緩やかな山なりの横書で表示している点で共通するものを含む)及び「CAMELとラクダのマーク」(文字部分については「CAMELマーク」についてと同様であり、ラクダの図形部分については、ヒトコブラクダの左側面の図形を配した点で共通し、ラクダの足元の横線が無く、背後に砂漠、オアシス及びピラミッドの図形を配したものを含む)を付した煙草等の商品を長年にわたり日本国内で販売し、特に昭和五九年以降は、右各マークそのものないしは各マークを付した煙草等の商品をテレビ、雑誌、新聞、屋外広告等の広告媒体に多数回にわたり反復して放映、掲載又は掲示し、更に昭和六二年以降、訴外レイノルズがF1グランプリ・モーターカーレースにおいてロータスチームのメインスポンサーとなったこと等によって、右各マークは、煙草の取引者及び需要者のみならず、衣料品、特にトレーナー、Tシャツ及びポロシャツの取引者及び需要者の間においても、周知著名となり、右各マークを付した商品は、「CAMEL」の文字からなる商標を付した世界的に著名な煙草の製造販売会社に関係があると認識され、かつ「CAMEL」の文字は「キャメル」と称呼されていると認められる。そして、被告標章は、乙標章は、「CAMELとラクダのマーク」に色彩を結合したものであり、甲標章はそこに更に「CAMEL」の文字に比してかなり小さく「Grand Prix Racing Team」の文字を表示したものであり、「CAMEL」の文字部分が際立っているから、取引の実際においては、被告標章に接する取引者ないし需要者は、容易に「CAMEL」の文字からなる商標を付した煙草の製造販売会社を想起し、「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼ではなく、「キャメル」の称呼をもって取引、購入し、かつ、観念においても、単なる「動物のラクダ」又は「動物のラクダの印」の観念により識別することはなく、いわば「(著名な煙草)『キャメル』のラクダの印」という観念で識別し、本件商標が使用された場合に本件商標から想定される出所とは別個の、「CAMEL」の文字からなる商標を付した煙草の製造販売会社又はそれと関係のある企業が商品の出所であると認識して、取引し、購入すると認められ、これとは逆にそれが本件商標から想定される出所にかかるものであるかのような印象を取引者又は需要者に与え、商品の出所につき混同を生ぜしめるおそれがあるとは認め難く、この点においても、被告標章は、本件商標に類似しないと認められる。
5 また、被告トレーナー②の背面に付された標章は、乙標章の下に「F1 Racing Team」の文字が横書で配されているが、甲標章と同旨の理由により、本件商標に類似しないと認められる。
なお、原告は、被告トレーナー①及び被告Tシャツに関して、実際に付されている甲標章のうち「Grand Prix Racing Team」の文字を除く部分のみを標章として主張しているが、甲標章から右部分を取り出して検討しても、その標章は乙標章と同一であるからやはり本件商標に類似しないと認められる。
二 以上によれば、被告標章はいずれも本件商標に類似するとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 長井浩一 辻川靖夫)
<以下省略>